つげ義春旅写真

3−下栗(長野県)

 上村から街道をそれて急峻な山道を登ると下栗集落がある。ここの風景を眺めて初めて郷を実感することができた。大変な僻地で高所のため、上村から道が通じたのは三年前のことで、それまでは孤立して、五十年前までチョンマゲを結って自給暮らしをしていたと、上村の元校長先生をしていた老人に聞いた。
 村人の車に便乗させてもらい行ってみると、南アルプス連山が眼前に迫り、谷底までは500メートルはあろうかと思われる斜面に石置屋根の家が点在していた。高所といっても実際には850メートルほどなのだが、地形の険しさによるせいなのか、天に昇った錯覚を起こしそうになった。宮本常一はこんな所にまで足跡を残し「天が近い村」と称している。暮らし向きのことはともかくとして、旅人の目にはまさに仙境として映った。

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