知られざる宿場

本洗馬宿_2

イメージ東漸寺の枝垂れ桜  数年前まで街道に面してスズメおどしを飾った信州独特の本棟造りの古民家が並び、菅江真澄が逗留したころの情緒が残っていたことは過去に紹介した通りである。ところが、三年ぶりに訪れてみると、集落の様子が一変していた。もはや宿場の面影はどこにもない。かつて見かけた路傍の文化財のいくつかも見当たらない。真新しい大邸宅が軒を連ねるばかりなのだ。ここ数年、どこの農山村でも主導権を握る30代〜40代が「古いものは汚い」の価値観を抱いているようだとのこと。
イメージ東漸寺門前  しかし、家並は変わっても、集落を囲む周辺の景観は以前のままだ。元洗馬のまわりには真澄が世話になった長興寺をはじめ数々の寺がある。それらの境内では遅い春が訪れる4月下旬から5月はじめにかけて、レンギョウ、シャクナゲ、ツツジ、菖蒲、桃等々の花がいっせいに咲き出す。そのなかでもいちばん最初に目を奪うのは枝垂れ桜だろう。
イメージ「とおせんぼ」する桜

イメージ薬師堂
 南端の東漸寺には何本もの枝垂れがあり、それぞれが競い合うように饗宴をくりひろげる。長興寺の石段脇の枝垂れの古木もじつに味わい深い。その遥か彼方には真澄が記したように桔梗ヶ原が望める。元洗馬から「やくし道」を北西へ十数分歩いたところに萱葺きの立派な薬師堂がある。江戸後期の建物ということだが、ほかと同じように傍らの枝垂れ桜が見事である。
イメージ長興寺  いずこも休日といえどだれも訪れない。が、いつかは神代桜のように見物客で賑わうことになるだろうか。さて、「とおせんぼ」するように街道のど真ん中にある東漸寺まえの枝垂れもまた忘れ難い。現在は車が通れるように道幅を広げてしまったが、数年前までは本当に車を「とおせんぼ」していたのである。(2007年5月27日)


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