秋野すすきの蔵書・一部
1971年の初秋。神田お茶の水の画材屋「画翠レモン」の三階への狭い階段のわきに平ベったい小さなショウウィンドがあった。そのなかに豆本のような薄い本が置いてある。秋野はめざとくそれを見つけ、店員に中身を見せてくれるように頼んだ。
パラフィンで包装された淡いピンク色の表紙とその薄っぺらなつくりが、いかにも「はかなげ」であった。横9センチ、縦13センチ、48ページだての本だ。表紙にはなんの文字も印刷されていない。扉を開くと Georges
Hugnet の詩にハンス・ベルメールのイラストが付されていることがわかった。限定版なのか奥付に「221」の番号がふってあるが、発行年月日がない。秋野は、ベルメールのイラストには魅了されたようだが、「海賊版」かもしれず、半信半疑だった。店の人が、パリで偶然に見つけて仕入れたと語った。売り物なのかと尋ねると、そうであるとの返答。本の裏に鉛筆で1000円とあった。そのころ「レモン」の紅茶は、たしか350円だった。
なお、秋野の企画で、後日これとそっくりな体裁で、林静一イラスト集『哀歌』を300部だけつくったことがある。つづく (2006/4/23)
1段目画像:本文中のハンスベルメールの豆本より
2段目画像:ロセッティ画集
2段目画像:『Mittens for kittens』
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